はじめに:なぜ就学前施設にBCPが必要なのか?
保育園、幼稚園、認定こども園は、日々多くの子どもを預かり、保護者に代わってその安全を守る大切な使命・役割を担っています。その大切な使命・役割を果たしていくために、自然災害や感染症などの緊急時を想定した「実効性の高い事業継続計画(以下、BCP)」を策定する必要があります。また、近年激甚化・頻発化する自然災害や感染症リスクの高まりを受けて、2023年4月から「BCPの策定、研修・訓練の実施、定期的な見直し」が努力義務化されました。
自然災害や感染症の発生時に、子どもや保育者の安全を確保しつつ業務を継続するために、まずはBCPを策定することが社会的にも求められています。

BCPの基本的な考え方
BCPは、自然災害や不測の事態が発生しても、人命を守り、重要な業務を中断せずに続けるための計画です。就学前施設におけるBCPは、災害や感染症が発生した際に、子どもたちの命を守りながら、安全に業務を継続するための指針となります。あらかじめBCPを策定し、組織内に浸透・共有されていることで、災害等による被害やサービスの質低下を軽減することができます。
BCPの主な目的は、以下の3つに集約されます。
- 子どもと保育者の安全確保:事業者には安全配慮義務が課せられており、預かっている子どもたちや保育者の安全を確保することが求められます。
- 重要業務の継続:サービス提供における重要(優先)業務を選定しておくことで、緊急時の限られたリソースの中でも重要業務を維持していきます。
- 早期復旧:いつまでに、どのレベルまで業務を復旧させていくのか、そのための取組みなどを明確にしておくことで、早期の復旧に向けていち早く行動することが可能です。
BCP策定のステップ
就学前施設におけるBCP策定の具体的なステップを解説します。
BCPの策定・運用は経営に関する重要な取組みです。形だけでなく実効性の高いBCPを策定・運用するためには、経営者や施設長の方からBCPの策定に関する基本方針を示していただくことが重要です。厚生労働省のガイドラインでも「基本方針は優先する事業の選定や地域貢献その他さまざまな項目を検討する際の原点となるので、何のために BCP 作成に取り組むのか、その目的を検討して記載する」と記載されています。また、組織内にBCPを浸透させ、いざという時にスムーズに行動できるようにするためには、体制整備や保育者の方の役割分担を決めておくことも重要です。
まず、施設の立地や環境に応じてリスクを分析・把握することが重要です。「保育所における医療的ケア児の災害対応ガイドライン」によると、保育所等の立地は「浸水想定区域」が34.7%、「津波災害警戒区域」が7.5%、「その他」の警戒区域は3.5%となっており、警戒区域等に位置する保育所等は50.2%という結果になっています。
地震や水害の影響を受けやすい地域では、防災ハザードマップや地域の防災計画を参考にして、安全な避難経路や避難場所を平時から確認しておくことが重要です。その際、浸水しやすいアンダーパスや倒壊の恐れがあるブロック塀など危険な場所を避けて、安全な避難経路を設定しましょう。また、いつ、どのような災害が発生するかを想定し、それに応じた対策を整理しておくことが大切です。避難場所も災害の種類によって異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。さらに、感染症への備えとして、消毒液やマスクなどの衛生用品を常に確保しておくことも必要です。


自然災害などの緊急時には、全ての業務を通常どおり行うことは困難です。そのため、どの業務を優先して継続・復旧すべきかをあらかじめ決めておくことが重要です。また、発災直後・初動段階・応急段階など災害のフェーズごとに求められる対応を整理しておくと良いです。例えば初動段階においては、子どもや保護者の安否確認や建物等の被災状況の確認などの「情報収集」を実施するなどの対応が挙げられます。このようにフェーズごとに求められる対応を整理しておくことで、時間軸を意識したBCPの運用が可能となります。
保護者との情報連携
BCP策定時には、保護者に対してもしっかりと情報共有を行い、万が一の事態に備えておくことが求められます。例えば、自然災害が発生した場合に就学前施設ではどのような対応が行われるのか、具体的な行動計画をあらかじめ共有しておくことで、保護者の不安を軽減することができます。
また、自然災害時には保護者への連絡が困難になる場合もあります。東日本大震災の際には、一部で通信機能が麻痺し、電話やメールでのやりとりが困難な状況に陥ったケースも生じています。そのような時に備え、保護者との連絡手段をいくつか用意しあらかじめ周知しておくとよいでしょう。例として、NTTが提供する災害用伝言ダイヤル(171)・災害用伝言板(web171)の活用やSNS・ホームページで緊急時の状況を発信すること等が挙げられます。保護者との情報連携が円滑に進むことで、災害時の混乱を最小限に抑えることができます。

BCPの運用・定期的な訓練と見直し
BCPの運用を開始する際には、目的や内容を組織に浸透させるために、保育者の方へ説明する機会を設けましょう。BCPの内容だけを周知するのではなく、なぜBCPが必要なのかといった背景も含めて説明することで理解が深まります。
また、BCPはあくまで「計画」であるため、計画が有効かどうか、定期的に訓練(シミュレーション)を行い、検証する必要があります。抜け漏れや改善点がないかを確認し、見直しをしていくことが重要です。

まとめ:安全な保育環境を実現するために
就学前施設におけるBCPの策定は、緊急時に子どもと保育者の命を守るうえで非常に重要です。さらに、2023年4月にBCP策定が努力義務化されたことで一層の備えが求められています。実効性の高いBCPにするためには、計画を策定しておしまいではなく、定期的な訓練と見直しが必要です。
自然災害や感染症の発生に備えて、常に最新の情報と体制を整えておくことで、安全な保育環境を維持し、保護者の信頼を得ることにもつながります。