はじめに:就学前施設における避難訓練の重要性とその役割
就学前施設(保育園・幼稚園・認定こども園)において、子どもたちの安全を守ることは最優先事項です。特に、災害が発生した際の避難訓練は、施設全体が迅速かつ的確に行動するために欠かせません。避難訓練は、ただ避難経路を確認するだけでなく、災害の種類や規模、時間帯に応じた具体的な行動を練習する機会でもあります。
避難訓練を行うことで、保育者は子どもたちを安全に誘導するスキルを磨き、子どもたちは災害時にどう行動すればよいかを学びます。また、訓練を通じて課題や問題点を発見し、BCP(事業継続計画)に反映させることで、災害に強い施設づくりが実現します。本記事では、就学前施設が効果的な避難訓練を実施し、BCP策定に役立てるためのポイントを4つに分けて解説します。
ポイント1:多様な災害シナリオに基づいた訓練の計画と実施
避難訓練を効果的に行うためには、災害の種類に応じた具体的なシナリオを用意することが重要です。日本では、地震、台風、火災、洪水など多様な災害リスクがありますが、それぞれの災害に対する適切な対応を訓練でシミュレーションする必要があります。
たとえば、地震(日中の発生)の場合には次のようなシナリオを設定します。
- 揺れの発生時:揺れを感じたらすぐに子どもたちをテーブルや机の下など身を隠せる場所に避難させます。乳児の場合はクッション等で頭をかばいます。保育者は子どもたちが安全に避難できているか確認し、必要に応じて声掛けを行います。
- 揺れが収まった後:火元の確認を行い、ガスの元栓を閉め、電気のブレーカーを落とします。また、子どもたちに防災頭巾・外履き(上履き)を着用させます。避難経路に障害物がないかを確認し、安全が確認できたら、子どもたちの人数を確認し、避難経路に沿って誘導します。避難の際には安全確認を怠らないようにします。
- 避難場所に到着後:避難場所に到着した後、再度子どもたちの人数を確認し、怪我の有無などもチェックします。
また、火災の場合には起こりうる火元を想定し、煙の吸引による事故を防ぐために、濡れタオル等で鼻と口を覆い、低い姿勢で避難する訓練を実施します。このように災害ごとに異なる行動が求められるため、訓練では複数のシナリオを用意し、定期的にローテーションで実施することが効果的です。

ポイント2:保育者の役割分担と訓練計画の作成
避難訓練を成功させるためには、保育者間での役割分担が明確に決まっていることが重要です。災害時に混乱が生じると、保育者全員が一斉に対応しようとして逆に効率が下がる場合があります。そのため、訓練前に保育者ごとの具体的な役割を設定し、各自が何をすべきかを明確にしておくことが必要です。
具体的には、次のような役割分担(一例)が挙げられます。
- 避難誘導係:子どもたちを安全に避難経路に沿って誘導する役割を担います。事前に避難経路の安全を確認し、障害物がないかをチェックする役割も含まれます。
- 安否確認係:子どもたちの人数・負傷状況の確認を行うとともに、避難が終わるまで子どもたちのそばで目を離さず見守る役割を担います。
- 消火活動係:火元の確認を行い、ガスの元栓を閉め、電気のブレーカーを落とします。また、必要に応じて初期消火活動の役割を担います。
- 応急処置係:避難訓練中や実際の災害時に怪我をした子どもが出た場合、応急処置を行う役割です。医療機関の連絡先や施設に備え付けられている救急箱の場所や内容も把握しておく必要があります。
これらの役割分担を定めた後、訓練計画に具体的に反映させることで、訓練時には各自が自分の役割に従って迅速に行動できるようになります。定期的に役割を入れ替えたり、シミュレーションを行うことで、保育者全員が多様な役割をこなせるように訓練します。
ポイント3:避難訓練の際のコミュニケーションと保護者連携の重要性
避難訓練を成功させるためには、子どもたちや保護者とのコミュニケーションが欠かせません。特に就学前の子どもたちは、恐怖心や不安感を感じやすいため、訓練の際にはわかりやすく、安心感を持たせるような説明が必要です。たとえば、避難訓練の前に子どもたちに「地震が起きたら、みんなで机の下に隠れようね。先生が一緒に守ってくれるから安心してね」といった言葉で説明し、絵本や動画を活用して避難のイメージを持たせることが効果的です。事前に繰り返し練習することで、子どもたちは自然に行動できるようになります。
また、避難訓練の際には、避難時の基本ルールである「おかしもち(押さない・駆けない・喋らない・戻らない・近づかない)」を子どもたちが守れるようにすることが大切です。「おかしもち」のルールを、子どもたちが理解しやすい言葉で説明し、避難行動が自然にできるよう練習します。このようにして、子どもたちが災害時に安全に避難できる環境を整えることが重要です。
保護者との連携も非常に重要です。避難訓練の前後には、保護者に対して訓練の内容や目的を説明し、訓練後には結果を共有することで、保護者が安心し、協力体制を築くことができます。保護者に対しては、訓練時の子どもたちの様子や、災害時の緊急連絡方法、避難場所について詳細に説明し、家庭での防災準備についても呼びかけると良いでしょう。

ポイント4:訓練結果の評価とBCPへのフィードバックプロセス
避難訓練が終わった後には、訓練結果を評価し、改善点を特定することが大切です。訓練結果の評価は、避難誘導がスムーズであったか、子どもたちが指示に従って安全に行動できたか、保育者の対応が適切であったかなど、多岐にわたります。
評価の際には、保育者全員が集まり、振り返りのミーティングを行うことが推奨されます。その際、以下の点を確認しましょう。
- 避難経路に問題がなかったか:避難経路に障害物がなかったか、また避難の際に混乱がなかったかを確認します。
- 子どもたちの避難行動:子どもたちが指示に従って避難できたかを振り返り、特に小さい子どもへの対応が適切だったかを話し合います。
- 保護者への情報共有の効果:訓練前後の保護者への説明や共有方法が効果的だったか、今後改善できる点があればそれを取り入れます。
こうしたフィードバックを基に、BCPを改善・更新し、次回の訓練に反映させることが重要です。BCPは一度策定すれば完了というものではなく、訓練を通じて継続的に改善していくべき計画です。実際の災害時に役立つためには、訓練で得られたフィードバックをしっかりとBCPに反映させることが欠かせません。
まとめ:就学前施設の安全性を高めるための継続的な避難訓練とBCPの改善
就学前施設における避難訓練は、単なる行事ではなく、子どもたちの命を守るための大切な取り組みです。本記事で紹介した4つのポイント、すなわち「多様な災害シナリオに基づいた訓練の計画」・「役割分担」・「コミュニケーションと保護者連携」・「訓練結果の評価とBCPへのフィードバック」を押さえることで、効果的な訓練を実施し、BCPを改善・強化することができます。
避難訓練を通じて、保育者と子どもたちが適切な行動を習得し、保護者との信頼関係を築くことで、就学前施設全体の防災対策が一層強化されます。これからも定期的な訓練とBCPの更新を行い、災害に強い安全な施設づくりを目指しましょう。