地震、豪雨、感染症――子どもたちの安全を脅かすリスクは年々多様化しています。そんな中、BCP(事業継続計画)の策定が少しずつ保育現場にも広がりを見せていますが、策定しただけで安心してしまってはいないでしょうか?
BCPは、保育者全員が内容を理解し、いざという時に行動に移せてこそ意味があります。しかし、実際には「園長と主任だけが把握していて、現場の保育者にまで浸透していない」といった声も少なくありません。本記事では、保育の現場に根ざした視点から、園内で実践できるBCP研修とロールプレイの進め方を具体的にご紹介します。
なぜBCP研修が必要なのか
紙の上では完璧に見えるBCPも、実際の現場で役立つとは限りません。例えば、「地震発生時には避難場所に移動する」と記されていても、
- 誰が何人の園児を担当するのか
- 1歳児を抱えて3階からどう避難するのか(※都市部のビル型保育園などを想定)
- 電話が通じない中で保護者とどう連絡を取るのか など、具体的な行動は保育者の判断に委ねられる場面が多々あります。
さらに、保育者の中には「災害時は自分の家族も心配」「怖くて冷静に動ける自信がない」といった不安を抱えている方もいます。こうした感情は自然なものですが、それを乗り越え、”子どもたちを守るチーム”として動けるようになるには、平時からの繰り返しの訓練と、相互理解が欠かせません。
園内研修の基本ステップ:まず“BCPを自分ごとにする”
研修でまず大切なのは、BCPを「自分には関係ない専門的な話」から「私が動くときの話」へと意識を変えることです。以下のような取組みを行うことが有効です。
- 身近な事例の紹介
- 実際に災害が起きた園のニュースや、近隣での避難例を取り上げ、「もしこの園で同じことが起きたら?」と問いかける。
- ロールカードの作成
- 各職員に「災害発生時の自分の役割カード(ロールカード)」を作ってもらう。たとえば、「0歳児を2人連れて避難」「玄関で保護者対応」「備蓄品の搬出」など。氏名、担当クラス、役割を明記し、名刺〜A5サイズでラミネートして配布・保管する園もあります。
- スモールトーク形式のディスカッション
- 「避難中に子どもが泣き叫んだら?」「自分の子どもも同時に被災していたら?」といった難しい状況に対し、ペアやグループで意見を共有する。

実践的なロールプレイの進め方
【1】シナリオ作成のポイント
リアリティのあるシナリオは、保育者の集中力と学びを大きく高めます。以下の観点でシナリオを設計しましょう。
- 時間帯(朝の登園時/昼食中/午睡中など)
- 園児の年齢構成(0歳児が多い/3歳児クラスが外に出ている など)
- 使えないインフラ(電話不通/停電)
- 保育者の不在(主任が出張中など)
たとえば、
10時15分、震度6弱の地震が発生。園児17名、保育者7名が在園中。天候は雨。地震直後、1階の天井の一部が崩れたが、怪我人なし。電話は不通。保護者が迎えに来る気配がある。さて、あなたはどこで何をしますか?
このような問いかけで、各自が状況をイメージしながら動けるかが試されます。
【2】役割分担を明確にして演じる
ロールプレイの際は、以下のように役割を振り分けて演じると実践的です。
- 指揮担当(園長/主任)
- 保育者(0歳児担当/3歳児担当など)
- 引き渡し担当(玄関対応)
- 保護者役(模擬)
演じた後は、必ずフィードバックを行いましょう。
- 「どこで混乱したのか」
- 「判断に迷った場面はあったか」
- 「迷った時に誰に相談すればよいか」 などを共有します。
BCP研修を継続するための工夫
1回で終わると「やったつもり」で終わってしまいます。以下のような工夫で、研修を園の文化として根付かせましょう。
- 毎月の職員会議の冒頭に10分研修タイムを設ける
- 毎年の年度末に「BCPの振り返り&改善会議」を行う
- 参加を楽しみにできる仕掛けをつくる
- 研修後に「今日の気づき」をポストイットに書き出して掲示(コメントシェア)
- 参加ごとにスタンプやシールを配布し、「5回参加でおやつ会」などの小さなインセンティブを設ける(スタンプカード)
また、園長が「正解を教える」のではなく、「一緒に考えよう」というスタンスでいることが、保育者の参加意欲を高めます。
まとめ:備えることは、信頼につながること
BCPは、ただ“用意するもの”ではなく、“動ける状態をつくる”ことが本質です。 保育者一人ひとりが、「自分がこの子を守るんだ」という意識を持ち、仲間と共に行動できる関係を築くことが重要です。
それが、いざという時に園児を守る力となり、保護者の信頼を育て、地域の安心につながります。
