資金シミュレーションの重要性と目的を理解
事業を継続するためには、キャッシュフローの管理が欠かせません。特に自然災害の影響により売上が減少した場合、資金繰りが厳しくなる可能性があります。このような状況に備えるために、事前に資金シミュレーションを行っておくことが重要です。資金シミュレーションを行うことで、売上が平時に比べて減少した場合に、手元資金がどの程度の期間持ちこたえるか、また追加の資金調達が必要になるタイミングなどを事前に把握することができ、事業を継続するための準備を整えることが可能になります。
災害時を想定し、資金シミュレーションを実施
早速、次のA社の事例で資金シミュレーションを行ってみます。
【A社の場合】
- 年間の売上高:24,000万円
- 年間の変動費:12,000万円
- 年間の限界利益※:12,000万円
- 年間の固定費:9,600万円
- 年間の営業利益:2,400万円
- 借入利息(月):20万円
- 手元資金: 5,000万円
※限界利益とは「売上」から「変動費」を差し引いた利益のことを指します。
下表にて、自然災害の影響によって売上が70%まで減少した場合と40%まで減少した場合のシミュレーションを行い、営業利益・簡易的なキャッシュフローを算出しました。
(単位は万円) | 年間 | 月平均 | 減少した場合 | 売上が70%まで減少した場合 | 売上が40%まで
---|---|---|---|---|
平均売上高 | 24,000 | 2,000 | 1,400 | 800 |
変動費 | 12,000 | 1,000 | 700 | 400 |
(売上高-変動費) | 限界利益12,000 | 1,000 | 700 | 400 |
固定費 | 9,600 | 800 | 800 | 800 |
減価償却費 | 600 | 50 | 50 | 50 |
営業利益 | 2,400 | 200 | ▲100 | ▲400 |
【簡易的なキャッシュフロー】 | ||||
償却前営業利益 | 3,000 | 250 | ▲50 | ▲350 |
借入利息考慮(月20万円) | 230 | ▲70 | ▲370 |
売上が70%まで減少した場合、キャッシュフローは毎月70万円のマイナスとなり、売上が40%まで減少した場合、キャッシュフローは毎月370万円のマイナスになることが確認できます。
尚、キャッシュフローとは企業が手元に残す現金の流れを示すもので、簡易的なものにはなりますが、以下の式で算出することができます。
キャッシュフロー = 営業利益 + 減価償却費 – 借入金の元本利息
手元資金が減少するまでの期間と安全水準
売上の減少に伴う毎月のキャッシュの減少が手元資金(預金残高等)に与える影響を確認します。
企業が安定して経営を続けるためには、一定の手元資金を確保しておくことが不可欠です。手元資金の安全水準は、一般的に「月平均売上高の2倍」と言われていますが、最低でも月平均売上高分は確保しておく必要があります。
A社の場合、手元資金は5,000万円ありますが、安全水準を月平均売上高の2倍である4,000万円と設定した場合、安全水準を下回るまでどのくらいの期間があるかを確認します。
【安全水準を下回るまでの期間(A社の場合)】
売上が7割まで減少した場合、手元資金が安全水準を下回るまで約1年3か月
売上が4割まで減少した場合、手元資金が安全水準を下回るまで約3か月
シミュレーション結果を踏まえて次の行動を決定する
シミュレーションを行った結果、災害発生後、早い段階で手元資金が安全水準を割り込む可能性がある場合、経営者は迅速に対策を講じる必要があります。例えば、資金調達やコスト削減策の検討、さらには保険の見直しなども考えられます。また、シミュレーションの結果を基に、事業継続計画(BCP)の内容を見直すことも重要です。シナリオごとに適切な対応策を準備し、危機的状況においても事業を継続できるように計画を立てることが求められます。
BCP策定に資金シミュレーションを活用するポイント
最後に、資金シミュレーションをBCP策定にどのように活用するかについて解説します。資金シミュレーションは、企業の経営を安定させるための重要なツールです。シミュレーション結果を基に、事業継続のための具体的な対策を講じることで、危機的状況に対する準備を整えることができます。
また、定期的にシミュレーションを実施し、企業の財務状況や市場環境の変化に対応することが重要です。これにより、予期せぬ事態が発生しても迅速かつ適切に対応できる体制を整えることができます。