はじめに:サイバー攻撃がもたらすリスクとは?
近年、サイバー攻撃の件数は急増しており、その手法も多様化しています。特に、中小企業がターゲットにされるケースが増えているのは、セキュリティ対策が大企業に比べて手薄であることが要因とされています。サイバー攻撃によって、重要な情報が漏洩したり、システムがダウンすることで事業が一時停止し、最悪の場合、企業の信用が失われるリスクもあります。これにより顧客を失ったり、取引先からの信頼を失ったりすることも少なくありません。
サイバー攻撃は、単なるITの問題に留まらず、企業全体の存続に影響を及ぼすリスクとして捉えなければなりません。中小企業はリソースの制約があるため、サイバーセキュリティへの投資が難しい側面もありますが、サイバーリスクへの対策をBCP(事業継続計画)に組み込むことが、企業を守るために欠かせないステップとなります。

BCPにサイバーリスクを組み込む重要性
自然災害やサプライチェーンの断絶といったリスクへの対策が不十分な現状において、サイバーリスクに対応したBCPを策定している企業はさらに少ない状況です。サイバー攻撃は事業活動に直接的な影響を与え、重要なデータや業務システムへのアクセスができなくなることで、即座に業務が停止してしまうリスクがあります。例えば、ランサムウェア攻撃では重要なデータが暗号化され、その解読のために身代金が要求されるケースが頻発しています。
警察庁のまとめ(令和6年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等)によると、令和6年(2024年)上半期に報告された企業・団体におけるランサムウェア被害は114件に上り、そのうち6割超(73件)が中小企業に関するものでした。
サイバーリスクをBCPに組み込むことにより、攻撃を受けた際の対応手順や復旧計画が事前に準備され、業務停止の期間を最小限に抑えることができます。また、サイバー攻撃に対する対応をあらかじめ明確にしておくことで、企業内部や取引先との顧客信頼の維持につながります。

サイバー攻撃に備える具体的な対策
中小企業がサイバー攻撃に備えるためには、まず予防策を講じることが重要です。以下のような対策をBCPに組み込むことで、サイバー攻撃のリスクを軽減することができます。
- OSやソフトウェアの定期的なアップデート
使用している機器のOSやソフトウェアは、定期的に更新し、最新のセキュリティパッチを適用することが重要です。これにより、既知の脆弱性を狙った攻撃から守ることができます。 - ウイルス対策ソフトの導入
ウイルス対策ソフトとその定義ファイルを常に最新の状態に更新しておくことで、ランサムウェアに感染するリスクを低減できます。 - 従業員の教育とトレーニング
サイバー攻撃の多くは、従業員が無意識に危険なリンクをクリックしたり、怪しいメールに添付されたファイルを開いたりすることで発生します。従業員に対する定期的なセキュリティ教育を行い、リスクの認識を高めることが効果的です。 - ソフトウェアのインストールはシステム管理者の管理下で行う
不正なプログラムのダウンロードによるウイルス感染を防止するために、ソフトウェアのインストールは、システム管理者の管理の下で行うようにしましょう。 - データのバックアップと復旧体制の整備
サイバー攻撃が発生した際、特に重要なデータが破壊されたり暗号化されたりするリスクがあります。定期的にデータをバックアップし、緊急時に迅速に復旧できる体制を整えておくことが不可欠です。 - 外部セキュリティ専門家との連携
内部に専門知識を持つスタッフがいない場合、外部のセキュリティ専門家やコンサルタントと連携し、リスクアセスメントや対策の実行を支援してもらうことも有効です。
サイバー攻撃発生時の対応手順
サイバー攻撃が発生した場合、適切な初動対応が事業継続において非常に重要です。緊急時の対応手順を事前に定め、速やかに行動できるようにしておくことが、被害を最小限に抑える鍵となります。
・サイバー攻撃の兆候や通報を発見した場合、すぐに情報セキュリティ担当者へ報告します。
・情報セキュリティ担当者がインシデントと判断した場合、経営者に報告し、迅速に対応チームを編成し、役割分担を明確にします。
・被害拡大を防ぐため、ネットワークの遮断やシステムの隔離を実施しますが、証拠となるデータは消去せず保持します。
・全ての関係者への通知が難しい場合や影響が広範囲に及ぶ場合、ウェブサイトやメディアで公表し、被害拡大を防ぎます。顧客対応として、専用の問い合わせ窓口を設置し、状況を迅速に把握して対応します。
・取引先や顧客に対して、インシデントの対応状況や再発防止策を報告します。個人情報の漏えい事案があれば、関連機関や当局に報告します。
・5W1Hの観点で状況を調査し、原因を特定した上で必要な修復作業(設定変更、機器交換、データ復元など)を行います。対応が難しい場合は外部の専門家に相談します。
・今後の対応のために、証拠となるデータやログを保全し、必要に応じてフォレンジック調査(パソコンのハードディスク、メモリ内データ、ログ等の調査)を実施します。
・情報漏洩賠償保険などに加入している場合は、速やかに保険金請求の手続きを実施します。
・修復が完了し次第、停止していたシステムやサービスを復旧します。
・インシデントの再発を防ぐために、技術的対策の導入やルールの策定、教育などの体制整備を実施します。
情報セキュリティの自社診断について
BCP策定時には、情報セキュリティに関する基本項目をもとに現状を把握しておくことが重要です。
IPAが提供している「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」などのツールを活用して、自社の状況を確認することから始めてみましょう。

中小企業が活用できる支援策・補助金
サイバーリスク対策は、多くの中小企業にとってコストの負担がネックとなっています。しかし、各種公的機関や団体が提供する補助金や支援策を活用することで、これらの負担を軽減することが可能です。
たとえば、サイバーセキュリティに関する補助金の一つとして、「IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)」があります。この補助金は、サイバーインシデントにより事業継続困難となる事態を回避するとともに、サイバー攻撃被害が供給制約や価格高騰を潜在的に引き起こすリスクや生産性向上を阻害するリスクを低減するための支援を目的としています。
具体的には、「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスのうち、IT導入支援事業者が提供し、かつ事務局に事前登録されたサービスを導入する際、サービス利用料(最大2年分)が補助されるもので、補助率は1/2、補助額は5万円以上100万円以下となっています。
このような支援策を有効活用し、サイバーリスクに備える体制を整えることが重要です。
まとめ:サイバー攻撃に強いBCPを作成し、事業を守る
サイバー攻撃は中小企業にとって避けて通れないリスクとなっており、事業継続に大きな影響を与える可能性があります。BCPにサイバーリスク対策を組み込むことで、サイバー攻撃に備えた強固な事業継続体制を構築していくことが重要になります。サイバーリスクを意識したBCPの策定・見直しに取り組み、将来のリスクに備えることが、企業の持続可能な成長を支える大きな一歩となります。